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2012-10-24 (Wed)
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ロウアーイーストサイドにある老舗デリ、Katz's Delicatessen
1888年創業の、ユダヤ系コーシャー料理のデリ、大衆食堂。




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最初はKatzさんというユダヤ人が始め、その後息子や友人らへとオーナーは代わったが、100年を超えた今でも初代のKatzさんの名前を残している。

ロウアーイーストサイドはマンハッタンの中心からも離れ、交通手段もなかったので当時は隔離されたユダヤ人コミュニティだった。
20世紀初頭に多数のユダヤ系移民がこの地域に移民して来る。
キャッツ・デリは、地域の労働者たちに安くてお腹いっぱいになるサンドイッチを提供した。
コーシャー料理といえばパストラミサンドイッチが有名だが、この店のそれはとてもボリュームがあることで知られている。女性一人ではとてもじゃないけれど一人前平らげない。




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コーシャー料理というのは日本ではあまり馴染みがないかもしれない。
ユダや料理には宗教上定められた独特の調理法がある。その調理法に従った料理しか、敬虔なユダヤ教徒は口にしない。
原料、製造過程、すなわち肉の処理の仕方にも規定があるので、ユダヤ人はコーシャーの肉屋さんでしか肉を買わない。
基本的に牛肉と乳製品を同時に食べることは掟に反するので、彼らはそれらを一緒の皿に盛らない。別々の食器が用意される。
また、一緒に調理することも禁じられているので、コーシャーキッチンというのは分けて調理するためにオーブンやコンロのセットが2つある。
シカゴでもそうであるが、ユダヤ系が多く住む住宅地では、建て売りでも「コーシャーキッチン」を売り文句にしている所が多い。調理器具も多く必要になるので、普通の家庭より、キッチンにスペースを要する。

食事の戒律が厳しいユダヤ人たちは、外食するにもコーシャー料理を出す店でしか食事をとらない。
だからニューヨークなどユダヤ系の多い街では、「この店はコーシャーですよ」と掲げる必要がある。



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店内はいたってカジュアル。
天井から肉がぶら下がり、ウィンドーに総菜が並ぶ。
カフェテリア形式で、自分の欲しいものをカウンターで注文して作ってもらう。

かつてイディッシュ・シアターがニューヨークのユダヤ人たちの間で大人気だった時代がある。
名前の通りイディッシュ(イディッシュ語)で行なうユダヤ人たちによる劇なのだが、オペラからコメディまでさまざまあった。映画の時代になり、このシアターから映画俳優になったユダヤ系アクターたちは数多い。

ニューヨークにイディッシュシアターが沢山あった頃、キャッツ・デリは俳優、コメディアンたちで賑わったという。
24時間オープンの店。
朝早い労働者から、朝方に仕事を終えてやって来るダンサーや俳優たちまで、キャッツ・デリは地域に根ざした大衆食堂だった。




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かつて地元の労働者たちで賑わったキャッツ・デリ。
時代は変わり、今では客の9割以上がツーリストとなった。

地元住民、あるいはユダヤ人であっても、この店に行く人はもうあまりいない。
なぜならば、価格が完全にツーリストプライスなのだ。すなわち、高い。
名物のパストラミサンドイッチは、確かに量は多いけれど、値段も他の店の1.5倍から2倍する。
ニューヨークは何でも高いけれど、特にツーリスティックになった店は高い。
キャッツ・デリは、持ち店で家賃を払う身ではないはずなのに。。。。と、思ってしまうが、ツーリストだったらこの値段払ってもこの店のサンドイッチを一度食べてみても損はしないだろう。
なんせ、店には歴史が詰まっているから。それを味わうだけでも損はしない。

壁にはビッシリと、訪れた客や著名人たちの写真が並ぶ。
その中にアル・カポネがある(笑)。確かにアルもかつて来たのだろうが、俳優写真と並べていいのだろうか??




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これはコーシャーフードの代表的スープ、マッツォボールスープ
「マッツォ」は「Matzo」だとか「Matzah」だとかスペルはまちまちだ。元はイディッシュなので、それを音合わせでアルファベットに直しているだけなので。

マッツォというパンと卵を合わせて作るボール。スープはチキンスープ。とてもサッパリしている。
店によってはこのボールがテニスボール大、野球ボール大、といろいろ。
日本人にしてみると、豆腐の味にとても似ていて親しみがわく。

「イタリア人はパスタ」というステレオタイプがあるなら、「ユダヤ人はマッツォボール」と言えるだろう。
ユダヤ人をからかうときにもよく出て来るこの料理。

ユダヤ人ゲットーを舞台にした映画「ワンス・アポン・タイム・イン・アメリカ」(1984年)で、主人公の少年たちがダイヤモンド銀行を襲う。
成功し、ダイヤモンドの粒が沢山入った布をあけて確認した時に一人が、「Lots of matzo balls!」という台詞がある。
ダイヤモンドはマッツォボールみたいに大きくはないが(笑)、ユダヤ文化を表した表現の一つだ。




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この店はしばしば映画にも登場する。
ジョニー・デップとアル・パチーノの「Donnie Brasco」(邦題:フェイク)(1997年)では、ジョニー扮する潜入捜査官がFBIのボスたちと会合する場所の一つにキャッツ・デリ内部が使われている。


一番有名なのは、ロマンチックコメディの「When Harry met Sally」(邦題:恋人たちの予感)(1989年)だろう。
主人公のメグ・ライアンが、「友人」である男性とこの店で食事し(2人ともサンドイッチを食べている)、店内でフェイクのオーガニズムを演じるシーンがある。
その有名なシーンが撮影されたテーブルの上には、ご丁寧にサインがある。

メグ・ライアンの友人男性役のビリー・クリスタルはユダヤ人。この映画の中でもユダヤ人キャラなので、コーシャーのキャッツ・デリに来るのはとてもナチュラルなこととも言えよう。


何度も不況の時代に持ちこたえて同じ地域で生き延びた店というのは強い。
今後も、客層がいくら変わろうが、同じパストラミサンドイッチやマッツォボールを提供し続けていくのだろう。




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