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2012-10-24 (Wed)
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ロウアーイーストサイドにある老舗デリ、Katz's Delicatessen
1888年創業の、ユダヤ系コーシャー料理のデリ、大衆食堂。




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最初はKatzさんというユダヤ人が始め、その後息子や友人らへとオーナーは代わったが、100年を超えた今でも初代のKatzさんの名前を残している。

ロウアーイーストサイドはマンハッタンの中心からも離れ、交通手段もなかったので当時は隔離されたユダヤ人コミュニティだった。
20世紀初頭に多数のユダヤ系移民がこの地域に移民して来る。
キャッツ・デリは、地域の労働者たちに安くてお腹いっぱいになるサンドイッチを提供した。
コーシャー料理といえばパストラミサンドイッチが有名だが、この店のそれはとてもボリュームがあることで知られている。女性一人ではとてもじゃないけれど一人前平らげない。




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コーシャー料理というのは日本ではあまり馴染みがないかもしれない。
ユダや料理には宗教上定められた独特の調理法がある。その調理法に従った料理しか、敬虔なユダヤ教徒は口にしない。
原料、製造過程、すなわち肉の処理の仕方にも規定があるので、ユダヤ人はコーシャーの肉屋さんでしか肉を買わない。
基本的に牛肉と乳製品を同時に食べることは掟に反するので、彼らはそれらを一緒の皿に盛らない。別々の食器が用意される。
また、一緒に調理することも禁じられているので、コーシャーキッチンというのは分けて調理するためにオーブンやコンロのセットが2つある。
シカゴでもそうであるが、ユダヤ系が多く住む住宅地では、建て売りでも「コーシャーキッチン」を売り文句にしている所が多い。調理器具も多く必要になるので、普通の家庭より、キッチンにスペースを要する。

食事の戒律が厳しいユダヤ人たちは、外食するにもコーシャー料理を出す店でしか食事をとらない。
だからニューヨークなどユダヤ系の多い街では、「この店はコーシャーですよ」と掲げる必要がある。



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店内はいたってカジュアル。
天井から肉がぶら下がり、ウィンドーに総菜が並ぶ。
カフェテリア形式で、自分の欲しいものをカウンターで注文して作ってもらう。

かつてイディッシュ・シアターがニューヨークのユダヤ人たちの間で大人気だった時代がある。
名前の通りイディッシュ(イディッシュ語)で行なうユダヤ人たちによる劇なのだが、オペラからコメディまでさまざまあった。映画の時代になり、このシアターから映画俳優になったユダヤ系アクターたちは数多い。

ニューヨークにイディッシュシアターが沢山あった頃、キャッツ・デリは俳優、コメディアンたちで賑わったという。
24時間オープンの店。
朝早い労働者から、朝方に仕事を終えてやって来るダンサーや俳優たちまで、キャッツ・デリは地域に根ざした大衆食堂だった。




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かつて地元の労働者たちで賑わったキャッツ・デリ。
時代は変わり、今では客の9割以上がツーリストとなった。

地元住民、あるいはユダヤ人であっても、この店に行く人はもうあまりいない。
なぜならば、価格が完全にツーリストプライスなのだ。すなわち、高い。
名物のパストラミサンドイッチは、確かに量は多いけれど、値段も他の店の1.5倍から2倍する。
ニューヨークは何でも高いけれど、特にツーリスティックになった店は高い。
キャッツ・デリは、持ち店で家賃を払う身ではないはずなのに。。。。と、思ってしまうが、ツーリストだったらこの値段払ってもこの店のサンドイッチを一度食べてみても損はしないだろう。
なんせ、店には歴史が詰まっているから。それを味わうだけでも損はしない。

壁にはビッシリと、訪れた客や著名人たちの写真が並ぶ。
その中にアル・カポネがある(笑)。確かにアルもかつて来たのだろうが、俳優写真と並べていいのだろうか??




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これはコーシャーフードの代表的スープ、マッツォボールスープ
「マッツォ」は「Matzo」だとか「Matzah」だとかスペルはまちまちだ。元はイディッシュなので、それを音合わせでアルファベットに直しているだけなので。

マッツォというパンと卵を合わせて作るボール。スープはチキンスープ。とてもサッパリしている。
店によってはこのボールがテニスボール大、野球ボール大、といろいろ。
日本人にしてみると、豆腐の味にとても似ていて親しみがわく。

「イタリア人はパスタ」というステレオタイプがあるなら、「ユダヤ人はマッツォボール」と言えるだろう。
ユダヤ人をからかうときにもよく出て来るこの料理。

ユダヤ人ゲットーを舞台にした映画「ワンス・アポン・タイム・イン・アメリカ」(1984年)で、主人公の少年たちがダイヤモンド銀行を襲う。
成功し、ダイヤモンドの粒が沢山入った布をあけて確認した時に一人が、「Lots of matzo balls!」という台詞がある。
ダイヤモンドはマッツォボールみたいに大きくはないが(笑)、ユダヤ文化を表した表現の一つだ。




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この店はしばしば映画にも登場する。
ジョニー・デップとアル・パチーノの「Donnie Brasco」(邦題:フェイク)(1997年)では、ジョニー扮する潜入捜査官がFBIのボスたちと会合する場所の一つにキャッツ・デリ内部が使われている。


一番有名なのは、ロマンチックコメディの「When Harry met Sally」(邦題:恋人たちの予感)(1989年)だろう。
主人公のメグ・ライアンが、「友人」である男性とこの店で食事し(2人ともサンドイッチを食べている)、店内でフェイクのオーガニズムを演じるシーンがある。
その有名なシーンが撮影されたテーブルの上には、ご丁寧にサインがある。

メグ・ライアンの友人男性役のビリー・クリスタルはユダヤ人。この映画の中でもユダヤ人キャラなので、コーシャーのキャッツ・デリに来るのはとてもナチュラルなこととも言えよう。


何度も不況の時代に持ちこたえて同じ地域で生き延びた店というのは強い。
今後も、客層がいくら変わろうが、同じパストラミサンドイッチやマッツォボールを提供し続けていくのだろう。




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2012-08-25 (Sat)
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ユダヤ人の多いニューヨークでは、ベーグルを始めユダヤの食が「ニューヨークの味」となって紹介されることも少なくない。
確かに、アメリカの都市の中では一番、身近にユダヤ料理の味が溢れている街だ。

そんな中で私が好きなユダヤ料理のスナックはクニッシュ
シカゴでもユダヤ系デリやレストランに行けば食べられるが、「クニッシュ屋さん」のような専門店はやはりニューヨークならでは。




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ローアーイーストサイドの同じ場所に、1910年から店を構えるYonah Schimmel's Knish Bakery

この店は随分前から知っているのだが、ウッディ・アレン映画の「Whatever Works」(2009)(邦題:「人生万歳」)にちらっと出て来たときは「おお!やっと出て来たか!」と思ったりもした。
ウッディ・アレンの好きそうな場所だし、ニューヨークに住むユダヤ人なら、一度はここのクニッシュを食べたことがあるんじゃないかと思う。

私は90年代にニューヨークでユダヤ人男性と暮らしていたことがある。
彼は全く宗教心のないユダヤ人であったが、薄いのは宗教心だけで、とても強いユダヤ文化を背景に生まれ育ち、アイデンティティもとても強いユダヤ人であった。
宗教心が薄いといっても、大学時代はイスラエルに留学してヘブライ語の勉強などする、アメリカのユダヤ人としてはかなりあたりまえのユダヤ人なのだ。
その彼がユダヤの伝統料理をいろいろと紹介してくれた。
民族とか宗教でくくられる我々人間の中には、実はそれほどの民族アイデンティティや宗教心が強くない場合もある。だが、そこから来る生活慣習というのは強く受け継がれる。
その一つが、そして最も強い一つが、食文化だな、と思うことはよくある。




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丸い形のクニッシュ。
これはスィートポテト。
他にはポテト、ほうれん草、豆などがある。

この店のクニッシュが美味しいのは、代々伝わる特別なオーブンのおかげだ。

素朴な味だが、中身は詰まっているので、一つでかなりお腹いっぱいになる。



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壁には古い写真や新聞記事が沢山。
なにしろ、100年以上の歴史がある店だ。

この地域ローアーイーストサイドは、19世紀後半からユダヤ系移民が大量に住み始めた場所だ。
長い間一大ユダヤ系コミュニティだったのであるが、ここ10〜20年のジェントリフィケーションでユダヤ系のコミュニティはもうほとんど無くなりつつある。
無くなりつつあるユダヤ系の店の、貴重な一つでもある。



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近年のジェントリフィケーションだけでなく、60年代〜80年代はとても治安が悪化し、犯罪多発地域でもあった。成功したユダヤ人たちが、ここを出て行ったのも頷ける。
そんな中で、ひどい時代を何十年も耐え続けて引っ越さなかった店というのは、ある意味頑固だ。
今では遠い国から観光客が来る地域になったが、そんなことは想像すら出来なかった時代は長い。
生まれ育った土地への執着なのか。ユダヤ系移民のオリジンを大切にする忠誠心からか。

ニューヨークの老舗を見ると頭が下がるのは、地域の「ひどい」時代の歴史も背負っているからだ。
商売を妨げたのはごろつきやホームレスや酔っぱらいだけではないはずだ。ブレットプルーフのウィンドーやドアが無ければ命さえ危ない時代もあったはず。
よく閉めずに引っ越さずに、同じ場所で続けて来たもんだ、と感心するのだ。




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先日のブログでも書いたが、ここでもエッグクリーム。
チョコレートとバニラのフレーバーがあるのだが、この店はミックスを作ってくれる。



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これはポテト&マッシュルームクニッシュ。
マスタードを付けて食べると美味しい。

ニューヨークに行くとコーシャー料理の店に行きたくなるのは、こういう美味しい店が手軽にあるからだろう。



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2012-07-31 (Tue)
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前回のタイムズスクエア周辺に続き、劇場街のことを。

ブロードウェーのミュージカルは、NYに来たなら一度は誰でも観たいだろう。
好きならば何度でもだろうが、特に好きでなくても一度は。



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普段美術に関心が無くとも、パリに行ったらルーブルに行くように。
遺跡フェチでなくても、ローマに行ったらコロッセオを見るように。

特別に好きでなくても、見て損するものではないことは確かだ。



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ブロードウェー周辺には沢山の劇場が連なる地域。

マチネーなどのディスカウントチケットを売るTKTSというブースがブロードウェイにある。
今や立派なスタンドになって、広場に椅子まで備え付けられるようになった。

このブースが、素朴な小さな木製看板一つの、小さな窓口だったのを覚えている人もいるのではないか。
ここに広場も客席も無い頃、赤い文字の看板がポツンと立っていた。(90年代まで?)

NYに住む友達と待ち合わせする時など、「TKTSの前で」ということが多かった。
渋谷のハチ公みたいなものだった。
いまや、人が多過ぎて待ち合わせに困るだろうが、その代わりに携帯が普及したので大丈夫か。



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ブロードウェイでミュージカルを初めて観たのは、はるか昔の83年だ。
金曜の夜だったか。
父と、父の同僚の日米ハーフの大きなおじさんと3人で郊外から車で来た。

トニー章を受賞して評判だった、42nd Streetだ。

言うまでもなく、ニューヨークの42nd streetを題材にした話で、それをまさに舞台の劇場街で観れるというのも感激だった。



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観劇したのはマジェスティック劇場だったと思う。
当時ここから撮った写真があると思うが、劇場前はほとんど変わっていない。

観劇の前に軽い食事。
父のアメリカ人の同僚から聞いていた、「すごく美味しいイタリアンサンドイッチの店」へ。
そう、それは、劇場街から西へちょっと行ったところのヘルズキッチンに。
ポルノのネオンがところどころきらめく怪しい通りに、すごく混んでいるイタリアンデリがあった。
具をあれこれ選んで作ってもらうのだが、これが美味かった。
立ち食い席しかないのだが、観劇前の人ですごく混んでいた。
この店はもう無いと思う。

そう、あの時代。
車を駐車場に止めて劇場まで歩く間に(わずかな間である)、一体何人の売春婦に出くわしたことだろう。
タイムズスクエア周辺は、夜になるとずらーっと並ぶのだ。ミニスカートはいた女性たちが。
あの雰囲気は、凄まじいものだったな。
あのままでは、確かに家族で歩くのにはふさわしい所ではない。


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あれからCats(キャッツ)だとかPhantom of the Opera(オペラ座の怪人)だとかLes Misérables(レ・ミゼラブル)だとか、メジャーなものはブロードウェーで何度か観た。
だが、私はあまり舞台が好きな方ではないので、最近音沙汰である。
が、今気になっているのは、フィリップ・シーモア・ホフマン主演の「セールスマンの死」。
過去のダスティン・ホフマンのセールスマンも有名だが、今回のもすごくよいらしい。


舞台好きといえば、知人で舞台を思う存分観るために、90年代にNYに1年住んだ男性がいる。
私立高校で英語の先生をしていたのだが、「夢を追いかけるため」に30歳で退職。
「夢男」(仮ニックネーム)と呼ばれていた。
彼は貯金500万円を持ってニューヨークへ。
舞台芸術の学校にも行ったそうだが、ほぼ毎日ブロードウェー、オフブロードウェー、オフオフブロードウェーのステージを観る生活だったらしい。

当時はそんなに家賃が高くないとしても、安全な場所に住むとなるとそれなりにかさむ。
1年で観劇(及び生活費)に全てお金をつぎ込んで、無一文になって帰って来た。素晴らしい。
「好き」というのは、夢男さんみたいな人のことを言うのであろう。



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夢男さんが日本に戻って来てからしばらく経って、東京でバッタリ会った。
渋谷文化村のオーチャードホールであったクラシックコンサートだ(なんのコンサートかは忘れた)。
私はチケットを用意してくれた人のおかげで、前の方のいい席で観れた。
観劇好きの夢男さんは、2階席の一番安い席だと言っていた。だけど驚くことに、コンサート期間中、毎日毎日来て聴いているのだと。
「毎日聴いても、毎日違うんだよねー」
そりゃーそうだろうけれど。
普通の人はそこまでしませんよ。恐れ入ったのであった。

夢男さんはあれから東京で小さな骨董店を開き(そんな趣味もあったとは知らなかった)、「気の向いた時にしか開いていない店」とウワサされていた。
なんだかいつか、ブロードウェイあたりでまたバッタリ会いそうな気もするのである。



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2012-07-24 (Tue)
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たまにはメジャーなところも載せよう(笑)
いわずと知れた、タイムズ・スクエア。

アメリカの都市は(ラスベガスを例外として)アジアの都市に比べると、ネオンや看板がずらりと「これでもか!」というほどに立ち並ぶ地域というのが少ない。
だが、このタイムズスクエアは別である。香港や新宿歌舞伎町に負けていない。

昼夜問わずツーリストが多くて非常に歩くのに疲れるところなのであるが(汗)、ここの看板やサインは時代を映すので興味深い。
周辺の店もころころ変わる。フランチャイズ店というのはアメリカの象徴だが、その店舗も時代と共に変わる。



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ロバート・デニーロ主演の映画「タクシー・ドライバー」(1976)にも、タイムズスクエア周辺がよく出て来る。
タクシーの窓から見た当時70年代の光景。
先日、映画のオープニングシーンの話をしたが、この映画のオープニングも私の大好物だ。

いまやタイムズスクエアというのは、夜中回っても子供を連れた家族連れが安心して歩けるとても治安のよい場所になったが、映画の中のそれは正反対だ。
道路のゴミや水たまりを見ても分かるように、この地域の整備は全くなされてなかった。ブロードウェイという、世界に誇れる一大文化地域がある場所なのにも関わらず、ずっと治安の悪い場所であった。

映画にも描かれているが、劇場の前でもジャンキーがたむろし、売春婦が客を誘うような光景が繰り広げられていた。
世界トップの文化と猥雑文化の混在。不思議なところであった。
東京で例えると難しいが、渋谷文化村と新宿歌舞伎町と錦糸町歓楽街と浅草裏通りが一緒になったような地域だった。そのNY版だ(ちょっと無理があるなww)



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私が最初にNYに来たのは83年。
父が仕事でNYにいたので、夏に1ヶ月ちょっとの間訪れたのが最初だ。
しかし父は仕事なわけで、ウィークデーは私は一人で行動しなければならない。
郊外の住宅地White Plainsから電車に40分ほど乗り、毎日マンハッタンにやって来た。
当時10代の小娘を一人で歩かせようなどと、父も大胆だったとは言えが、仕事が忙しくてそれどころじゃなかったとも言える(笑)。
80年代のマンハッタンは、アッパーイーストやミッドタウンを抜かしてほとんどの地域が荒れていた。
だから「行っていい場所」と「行ってはいけない場所」というのを、地図上で線を引いて教えてもらった。
当時はかなりやばい人以外、オフィス街で働く人なんてもちろん、地下鉄に乗る人なんていないくらい地下鉄は危険だった。
だから交通手段は、地上を走るバスとキャブ(タクシー)。

83年当時、バスは75セントだったのを覚えている。コインしか使えなかったので、いつもクウォーター硬貨をポケットに貯めていた。
2012年現在、バスは2ドルだ。
しかし83年は1ドル約250円だったので、換算すると187円。
2ドルと上がった今だけど、1ドル80円で換算すると180円。
日本人にとってみては、30年近く経った今の方が安い(笑) 円高っていいよねw こっちに住み始めると関係ないが。

いまや家族連れの憩いの場所であるセントラルパークも、「女性は一人で昼間でも入ってはいけない」とされていた。レイプが多発していたのだ。ジョギング中の女性がよく襲われていた。
公園内には見通しがよく安全な場所もあるのだが、どこが安全でどこがレイプ多発地域なのかなんてのは、当時の私は知る由もない。
イーストサイドからウェストサイドの自然史博物館に行くにはセントラルパークを横切らないと行けないのだが、「歩いてはいけない」と言われていたのでキャブを使った。



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しかし、好奇心旺盛冒険好きな私は当時から健在である(笑)
命取りになるようなことはしないが(本当に当時のNYは怖い所いっぱいあった)、「ちょっとだけなら」と「行ってはいけない場所」の線を超え、入ってみたところがある。
それがタイムズスクエアの西側だ。

ヘルズキッチンといわれる地域の一画だが、当時は一大ポルノ地域であった。
「ゴッドファーザー」の原作者、マリオ・プッツォは南部イタリア生まれで、ここヘルズキッチンの貧乏なイタリアンコミュニティで育った。
いわゆる「HOOD」で育った彼の生い立ち、当時のこの地域の背景が、「ゴッドファーザー」の創作に大きく影響したと言われている。

ブロードウェイの劇場街(ここも治安が悪かったが)と一つ通りを挟んで、ここまで荒むのか、というほど、昼間から酒臭いおっさんが歩いている。
5番街やマディソン街を歩く人たちと全く違うわけだ。



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ポルノ街には怪しい看板が連なる。
ポルノ映画館、のぞき小屋、ストリップ劇場、アダルトショップ、ビデオショップ。。。などなど。
ヘルズキッチンはアイルランド系とイタリア系労働者地域であったが、セックス産業はイタリア系マフィアが牛耳っていたといわれる。

今でも多少、ポルノショップが残ってはいるものの、もうほとんど影も姿もない。
僅かに残っているそういった店も、当時とは比較にならないほどの健全な店になり、客のほとんどはツーリストである。



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一部をのぞいて「危険な街」とされていたNYを、「アメリカで最も治安のいい街」とされるほどに変身したのは、イタリア系二世のジュリアーニ市長の政策のおかげだ。
検事時代にはマフィア掃討作戦の指揮をとり、薬物汚染や経済犯罪対策に効果を上げたことで知られる。
さらに市長になった任期の1994年からは特にNYは大変身を遂げ、汚職警官も一掃し、犯罪率をぐんと下げた。
身内がマフィアで、自らも用心棒だった過去を持つジュリアーニならではの偉業である。

一番大きいのは、NYの中心地であるタイムズスクエア周辺の再開発であろう。
ジャンキーのたむろする犯罪多発地域であった場所を、24時間観光客が一人で歩いても、小さな子供を連れて歩いても安全な地域にしたのだ。
その一環に、この地域のマフィアビジネスの温床であったポルノ産業一掃がある。
ジュリアーニ市長の政策で、ハーレムまで観光客が足を伸ばせる場所になったのだが、それはまた別の機会に書くとしよう。



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一般には、ジュリアーニ市長の政策は「NYを安全な街にした」と評価が高い。
治安がよくなったというのは、確かに評価されることだろう。

だが一方、短期に急激に行なった、いわば強制的な再開発により、被害を被った古くからの住民たちや、古いコミュニティも存在する。
そのことは、「消え行く古きイタリアン・デリ」に書いた。

再開発は確かに風通しをよくし、街を整備し、綺麗になるのだが、そのせいで家賃が急激に上がる。
持ち家の住民らはまだいいが、この地域は元々低所得者層の地域。安い家賃で暮らしていた人々が大勢いる。
そういった、何世代もこの地域に住み続けたアイルランド、イタリア系の古い住民がここから出て行かざるを得なくなった。

住民が出て行けば、コミュニティは無くなる。
いくら持ち家で引っ越す必要がない人も、肉屋やパン屋や飲み屋を始め、彼らのエスニック性で成り立っていた商売は必要とされなくなる。

家賃が上がってこぎれいなアパートやコンドミニアムが建設されると、よそから新しい住民たちが入って来る。
彼らに必要なのは、家族経営の肉屋や魚屋やレストランではなく、深夜まで開いている大型スーパーであり、誰でも入りやすい新しいレストランやバーやフランチャイズ店だ。

全てがいい方向に進む政策などはなく、再開発で喜ぶ人もいれば、その影で泣く人もいる、ということだ。




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タイムズスクエアの看板は時代を象徴する。
80年代には、日本のSONYが目についたが、まだまだアメリカ企業の名が多かった。
90年代になると、一番目立つ所にSONY、TOSHIBA、OLYMPUS、KONICA、PANASONIC。。。。などなど、日本ブランドのオンパレード。
そしていまは、中国系ブランドの漢字ネオンが目に入って来る。
10年後はどうなっているのだろう。



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80年代のNYは観光客がほとんどいなかった。
歩いているのはほとんどがビジネスマンなどの出張客といった具合。日本から大量にツーリストが押し寄せるようになったのは、円高が始まる90年代になってから、である。同時にNYの治安もよくなったので、ガイドブックも出始めた。

今でもそうだが昔から、この地域(に限った事ではないが)の土産物兼カメラや電化製品やコンピューターなどを売るショップはアラブ系ファミリーの経営が多い。
ギフトショップといっても、観光客があまりいないわけだから、売っていたのは絵はがきやマグカップ、Tシャツ、それとインディアン人形。
このインディアン人形というのは、昔アメリカのどこでも売られていたのだが、アメリカを代表する土産だったのだろう。父からの土産で、我が家にもいくつもあった(笑)。
いまやNYは土産物に事欠かない街であるが、そうでなかった時代もある。観光客など目当てにしていなかったので。

この手の土産物とカメラ&電化製品とスーツケース屋が並んでいる光景は、私の中ではノスタルジー。
タイムズスクエア周辺、ツーリスト用の店ってこの手しかなかったのだから!!(笑)


劇場街のことは、また後ほど書きたいと思います。



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2012-07-17 (Tue)
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先日、映画「サタデー・ナイト・フィーバー」のことを書いたので、ついでに舞台になったブルックリンのベイリッジのトピックを。

ベイリッジは古くから、アイリッシュとイタリア系とギリシャ系が多い街。



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そんなベイリッジに、レトロなアイスクリームパーラーがある。
「アイスクリームパーラー」という呼称自体が、アメリカではもうレトロ感。




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1897年創業というから、もう115歳だ。



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このレトロ感、たまりません。
歴史のある店というのは、地域に長く根ざしてきた貫禄というのがある。

最初、たった5つのフレーバーのアイスクリームショップだったらしいが、それがどんどん大きくなった。
1995年にこの店を買い取った今のギリシャ系のオーナーは、アイスクリームパーラーを食事も出来るダイナーに拡張したらしい。
ギリシャ系移民というのはダイナー経営が多く、おてのものといったところだろう。



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アイスクリームパーラーではアイスクリームを食べたい。
これはピスタチオアイスクリーム。
「トッピングは?」と聞かれたけれど、オーソドックスにホイップクリームとチェリーですよ、やっぱり!

この日暑かったのもあるけれど、美味しかったなあ。

レトロな銀の器がまたよい。
最近、やたらと「レトロ風」を装った店もあるけれど、そうじゃなくて、使い込んだ銀の器は「レトロ風」ではなくて、本当にレトロなのである。

浅草の裏通りに昔ながらの洋食屋があって、その店で食べたデザートのアイスクリームが、何十年もずっと大切に使われ続けているような、古い銀の器で出て来た。
そんなことをふと思い出す。

こんなアイスクリーム&コーヒー、上野とか本郷あたりの喫茶店にも似合うだろうなあ、と思ったり。

ベイリッジのアイスクリームパーラーで、ふと東京の下町を思い浮かべたりしたモーメントなり。



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